ほんの少しだけ追体験2006年06月14日 00時03分39秒

これからおでかけ

用事があって、テロテアさんのおうちを訪ねた。
ドアを開けてもらったとたん、「!!」と思った。
強烈な血と膿の匂いが部屋中に充満していた。

「テロテアさん、大丈夫?」
いつもなら、小走りで寄ってきてくれるテロテアさんは、奥の座敷にいた。
ぴぐモンと私が玄関にいるのに気がついて、大きなおめめでこちらをじっと見て微笑んでいる。
その場から動かずに、スフィンクス座りのままだ。

「この匂いか・・・これは・・・すごいね」と私は感心する。
「これでもずいぶんよくなったよ」とテロテアママ。


経緯はこうである。

ウルトラ団地の地域猫さんの中に、非常に気の強い猫さんが1匹いる。
団地を散歩する犬の全員が、この猫さんに襲われた経験を持っているのではないだろうか。
突然飛びかかって、犬をボコボコにするのが趣味らしく、茂みの中にいたり、角を曲がったところにいたり、エレベーターを降りたらそこにいたりするので、防ぎようがない。

その猫さんが、最近赤ちゃんをお産みになったとかで、凶暴がスキルアップしていたのだ。

その日も、テロテアさんとテロテアママがゆっくりおっとりと散歩していたところ、凶暴猫さんの襲撃をまともに受けてしまったという。

ただでさえ、歩く無防備と呼ばれている二人であります。

爪を全開にした凶暴猫さんにバリバリひっかかれ、普段無口なテロテアさんも、「きゃんきゃん」と泣き(反撃はしない)、二人は血だらけになりながらホウホウのテイで家に逃げ帰ったというわけだ。

傷口をきれいに洗って、病院で抗生剤ももらったので、ひっかき傷はカサブタになって快方に向かった。

でも、猫の爪は長かった。(ついでにばい菌だらけだった・・・)

ある朝、気がかりな夢から目覚めると、家中が不思議な匂いで充満していたそうだ。
「部屋のどこかで下痢でもしたのかな? 血便?」とあちこち探したがわからない。

そのうち、テロテアさんの肩から、たらたらと膿が流れているのに気がつくことになる。
治ったはずの傷だったが、皮膚の奥では深く静かにばい菌が繁殖していたのだ。

数日後、テロテアさんの肩には、クレーターがぽっかりと口をあけていた。
大きさは、親指と人差し指で円を作ったくらい。深さも深そうでとても正視できない。
見るも恐ろしいぐじゃぐじゃのクレーターは、あふれるように膿を流し続けた。

ぴぐモンと私が訪ねたのは、そんな頃のことだ。


テロテアママと二人、感慨にふける。

戦場で大けがをして、傷口を清潔に保つことは不可能だ。
栄養失調も加わって、治るより膿んで腐っていくほうが早いだろう。
沖縄戦の(被爆や空襲その他でも)体験談に、必ず「血と膿の匂い」が出てくる。
「あの匂いだけは、説明できない」と。

「この匂いかあ・・・(くんくん)」
「うん、これだよ・・・」
「これなんだね・・・、これのもっともっとひどいの」
「うん、これの1000倍か1万倍かそれよりもっとひどいの」
(想像する)
「うーん・・・・」
「うーーん・・・・」

「傷口にウジがわいて・・」というのも必ず出てくる話だ。

テロテアママは言う。
「蝿ってすごいんだよ。病院から戻って車を降りたら、すぐ蝿が傷口に止まろうとしたの」
「タマゴ産みつけられるところだったんだね」
「一瞬で産むはずよ」
(想像する)
「わー・・・・」
「わーー・・・・」


60年前をリアルに想像しながら、同時に、戦争をしている地域では今でも同じことが起こっているはずだ、と思う。
平和ボケだと言われようとどうでもいい。
犬でも手厚い治療が受けられる、そんな世の中の方が、ずっと正しいのだ。


追伸
テロテアさんは、少しもいやがらずに傷口を洗わせてくれました。
病院の治療も、きちんと受けたのです。
診察台の上に姿勢よく凛々しく立っていた姿は、病院中の賞賛を集めるのに充分でした。
今日、クレーターはずいぶん小さくなり、10円玉くらいになっていました。
もう、60年前を思い起こさせることはありません。
いつもの平和の犬に、あと少しで戻ります。

コメント

_ 平和ボケのpyo ― 2006年06月14日 09時51分01秒

うわーうわーうわー
犬の傷、わかりますぅぅぅ(><) おだいじに>テロテアさん

襲う側の猫の事も考えてしまいました。
先制攻撃するようになったのには、そりゃ猫なりの性格もあるでしょうが
それ以上にきっと過酷な猫生があったんでしょうね。
「恐れがあると攻撃的になる」と何かで聞いた気がします。

攻撃的だから、防備をする。
攻撃がきかないと、さらに攻撃度合いを上げる。
攻撃が酷いから、こちらも反撃に出よう…
となると、ハルマゲドンに発展しかねない人類縮図。

にゃんこも幸せに子育てできますように。
ところでその猫、仔猫の父は攻撃しなかったんですね?!!

_ 亜衣 ― 2006年06月14日 10時23分14秒

わぁ、可哀想なテロテアさん…

なるほど、これもまた戦争ですよね…
普段の生活の中でも戦争について学ぶことが出来るわけですね。
頭で理解だけでなく、自分や周りの人間や動物たちの怪我や病気、事故からも。

しかし…ユーモラスな表現につい笑いました。
さすがはウチナンチュです!
「歩く無防備…」「凶暴がスキルアップ」
…ぷぷ。笑っちゃ不謹慎ですね ごめんなさい^^;

テロテアさんが早くよくなることを祈ります!

ブックマーク完了です^^ くりからんゆたしくです~

_ みんと ― 2006年06月14日 15時25分19秒

うぎゃ〜〜〜っ!わ〜〜っわ〜〜〜っ!と耳を押さえながら読みました。
ネコの引っ掻き傷と噛み傷は、どちらも深手を負うとエラいことになります。
うちは母ちゃんも妹も諸事情でネコにやられて、エラいことになってました。
えらいなあ、テロテアさん。
そして戦争を追体験しちまったばるタンも、すごいなぁ。

_ kijimuna ― 2006年06月14日 15時43分53秒

テロテアさんの過去記事も先日拝見させていただいてました。なんという佇まいのわんこさんなんでしょう。
見習いたいが、一生無理でしょう・・・あたいには・・・。
テロテアさんの傷が早くなおって、元気になられますように・・・。

_ たーやん ― 2006年06月14日 17時35分37秒

猫の傷って・・・すごいんですよね。
私も飼い猫に一度、そして勤めているペットショップで一度。
アレは飼い猫も野良猫も関係無く、猫というものは雑菌を沢山もっているもので。
自分の猫に噛まれた手はグローブに、ショップで先生の家の血統書付きのアビシニアンに噛まれた顔はアンパンマンに。
傷口も膿んで酷かったです。
あぁ、どうか本当にお大事に。
今の虫の少ない時代・・・。
当時は酷かったでしょうね。
産み付けられるの?ほんとに?

_ ばるタン ― 2006年06月14日 23時06分44秒

>pyoさん
猫と犬では絶対に猫が強いです(それに頭もいいと思う・・)。
犬ごときではとても反撃は不可能と思われます。

その猫さんは、犬と出会ったら攻撃するのではなくて、わざわざ遠くからでも犬に駆け寄ってきて襲いかかるのです^^;;
きょろきょろ、びくびくしながらお散歩しているので、猫生を推し量る余裕もありませんでした。

あの猫さんが武器を持って襲いかかってくるようになったらどうしよう・・。
あの爪はすでに最終兵器かも・・。

猫同士なら、普通の猫さんなのかもしれませんね。むしろとても優しいお母さん猫だったりして。

「恐れがあると攻撃的になる」・・・アメリカってなにかとんでもない恐れがあるのかなあ・・・・。

_ ばるタン ― 2006年06月14日 23時18分15秒

>亜衣さん
テロテアさんは絶対反撃をしないので、戦闘にはなりませんでした。(一方的にやられただけ)

でも、そのあとのあの匂いはほんとうに強烈でしたし、テロテアさんもさぞ痛かったことでしょうがじっと耐えていました。

若い兵隊さんが治療も受けられず、泥だらけのまま(トイレも行けなかったでしょう)衰弱していくのが戦争なんだということを、まさかテロテアさんから教えられるとは・・。

あ、あの~、私は沖縄に住んで長いですが、うちなーんちゅではありません^^; でも、内地を離れて長いので、ないちゃーでもなくなっています。
「うちなーんちゅじゃないからわかんなーい」
「もう内地のことはわかんなーい」
とその場その場で楽な方を選んでいたら、両方わからなくなっております^^;
そんなコウモリ人生ですが、ブックマーク、にへーでーびたんです~。

_ ばるタン ― 2006年06月14日 23時27分17秒

>みんとさん
テロテアさんはえらいのよ。
病院の診察台にすっくと立った姿を見せたかったよ~。

先生が、ステンレスのお皿とか消毒用の綿棒とか針のない注射器とかをどんどん並べていくだけで、泣きそうになりました。テロテアママは完全に泣いていた・・。

戦争はいやだ~。痛いのキライ~。

_ ばるタン ― 2006年06月14日 23時34分35秒

>kijimunaさん

私が尊敬するのは、辺野古の人たちとテロテアさんだな。
テロテアさんの遺伝子を空から撒いたら、世界中一度に平和になっちゃうよ。

傷はみるみる治っています。
昨日訪ねていったら、玄関に小走りで来てくれたのよ。しかも笑顔でした。

_ ばるタン ― 2006年06月14日 23時46分17秒

>たーやん

飼い犬に手を噛まれる、とは言うけど、飼い猫に手を噛まれるほうがダメージが大きい場合がありますね。

うちで飼っていた猫にも噛み猫がいました。
親から早く離してしまった猫でした。

で、でも、顔を噛まれるって・・・どういうシチュエーション・・。

食卓のソーセージに蝿が止まったので手で払ったら、すでに卵がきちんと並んで産みつけられていました。
子供の頃の経験ですが。
そういえばあの頃は、ウジも時々見ていたなあ。

テロテアさんはもう大丈夫。
今なら傷口の写真だってアップできるくらいですよ~。
(クレーターのときは、放送禁止画像だった・・・)

_ あざみ子 ― 2006年06月15日 11時08分15秒

>非常に気の強い猫さんが1匹いる。

が気になっているんですが、イリオモテヤマネコの血が混じっているとか・・・?

それにしても、テロテアさんのように優雅に生きたいものです。すでに書かれているのかもしれませんがテロテアのお名前のいわれは?

_ Jitoh ― 2006年06月15日 14時05分02秒

ばるタンさん、

 テロテアさん、痛々しいです... 優しい子なんですね。早く良くなると良いですね。
 また経過を教えてくださいね。気になってしまいます^^;

_ ばるタン ― 2006年06月15日 17時46分19秒

>あざみ子さん

そういえば、イリオモテヤマネコに柄がちょっと似てるかも・・。

でも、あまりじっくり見たことはないんです。
いるのがわかると、こちらが必死で逃げるので。

木の根元の、保護色になるようなところにひそんでいるのよ。
この行動も、ただの猫ではないですよね。

テロテアさんの名前のいわれは・・・今まで誰も訊ねてきたことはないのですが、まあくだらない理由でして・・・。

「ブログネームどうしようか?」と飼い主に聞いたら、ちょうどスマスマを見ていた飼い主が「今、中居くんが『テロテアリーナ!』と歌っているからテロテアさん」。お後がよろしいようで・・・。


>Jitohさん

テロテアさんは、ほんとうに優しいこなんです~。

で、単純にできているらしく、病院のお薬が非常によく効きます^^;
見るに耐えなかった傷口も、「1週間でこんなにきれいになってる!」とびっくりするくらい良くなっているんですよ。

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