行列のできないATM2005年10月23日 23時59分08秒

桜坂劇場の椅子に座って、映画の始まるのを待っていた。

沖縄にある映画館で、私が一番落ち着くのは桜坂劇場だ。

なぜなら、椅子がゆったりとしているから。
背もたれが頭の上まであって、からだを全部あずけられる。
前の人の頭がじゃまになることもない。
前後の席の間にゆとりがあるので、座っている人の前を通ることも楽にできる。
ドリンクを置くところもあるし、この金具は何だろう。ああ、傘を差し込んでおけるのね。傘を足元に置いたりするとじゃまだもんね・・・。

か、傘?

あ、忘れた・・・。

映画館に入る前に銀行に寄ってきたのだが、ATMの機械に傘の柄を引っかけてそのまま出てきてしまったのだ。
映画が終わるまで、ちゃんとあそこにぶら下がっているだろうか・・。

2時間後、桜坂の坂を転がるようにして、あわてて銀行に戻った。

土曜日なので、窓口はシャッターが下りていて、ATMだけが6台並んでいる。

6台のうち3台に人がいて操作をしている。
見ると私の傘は、おじいさんが操作している台にきちんと引っかかっていた。
とりあえず安堵して、おじいさんの後ろに並んだ。

でも、この状況は明らかに変である。

空いているATMがほかに3台もあるのに、お年寄りが操作している後ろにぴったりと並んでいるのだ。

おじいさんは、ややこしい振り込みか何かをしているのだろうか、なかなか終わらない。

ほかの人は、お財布にお金を入れたりして、次々と銀行から出ていってしまった。

おじいさんと私だけが、ずらりと並んでいる機械の中の、たった一台に並んでいるという異常事態だ。

ここに誰か入って来たら、絶対怪しまれる。

おじいさんはまだ終わりそうもない。

こうやって、不自然におじいさんのうしろに並んでいる私の姿が、監視ビデオにばっちり映っているわけだよね。

どきどきしてきて、完全に挙動不審である。

もう仕方ない! 

「すいませーん。それ、私の傘なんです」
「ああ、そうですか」

傘を手渡してもらって、銀行を後にした。
早く声をかければよかっただけなのね。