ナミィさんとメリーさん2006年07月31日 23時42分03秒

ばあさんに向かって全速前進しているばるタンは、ばあさんのドキュメンタリー映画を立て続けに見た。
どちらも桜坂劇場だ。


「ナミィと唄えば」


椅子に座ってあたりを見回すと、会場中ナミィ状態。

私の斜め後ろでは、若い観光客カップルが困惑していて、「東京じゃ若い人ばっかりだけどなあ・・・」とつぶやいている。
ここでは、自分の映画として見に来た人たちばかりと考えてくださいねー。

観客全員ナミィなので、食べる、喋る、携帯が鳴る(鳴るけど持ち主がなかなか気がつかない。気がついたところで音をとめられない)。でも誰も気にしない~。

ドキュメンタリー映画なので、ネタバレ気にせずがんがん書く。

ナミィの若い(?)ボーイフレンドは八重山の沖縄戦を調べている人でもあるらしい。
朝鮮半島から連れてこられて、軍隊の下で働かされ、秘密を知ったからと辺境の地に捨てられて亡くなった多くの人たちがいた。
その人たちの鎮魂碑の前でナミィに唄ってほしいと言う。

ナミィは、ボーイフレンドが碑を作ったと知り、言うわけです。
「ありがとう」と。

思い出すのは、今年の3月、米軍再編に反対する県民大会のビラまきをしていた時のこと。ビラを受け取ったおばあさんが、「ねえさん、ありがとうねー」と言ってくれたのだ。

私も、そんなときにちゃんとお礼が言えるばあさんになれるかなー。
お礼を言っても言っても足りないくらいの世の中になりますように。



「ヨコハマメリー」


メリーさんのことなら、横浜駅西口で本物を見たことがある。

コスプレという概念が無かった時代に、フランス人形のようなドレスでベンチに座っているので、異様に目立つ。
その顔が真っ白に塗りたくられているので、それはそれは目立つ。
しかもかなりなご年配なので、見た人が混乱してどう反応したらいいかわからなくなるくらい目立っていた。

なぜか、みんな、その人の名が「メリーさん」だということを知っていた。

私の聞いていた噂では、「すっごい大金持ちの奥様。豪邸に帰っていく」だった。そうでも思わないと、まわりもやりきれなかったのかも知れない。

現実のメリーさんは娼婦だったそうだが、最後はホームレスになっていた。
でも、きれいなドレスとメイクは変わらない。

メリーさんの行きつけの美容院も、喫茶店も、ほかの客からクレームをつけられる。「あの人と一緒じゃいやだ」と。

映画を見ながら、私は、保護した犬たちのことを思っていた。
沖縄で保護して、横浜に空輸したギャオスとヒナゴン。
「沖縄には野良犬がいるんだね。こっちにはいないよ。拾えないよ」と姉も友達も口を揃えて言った。

横浜に野良犬がいない理由の一つは、すぐさま通報されて保健所送りになるからではないだろうか。
ギャオスが横浜の野良犬だったら、どうなっていたことだろう。

野良犬が多い状態が良いとはまったく思わない。
だけど、捨てられた犬が、しばらく暮らしていけるような町であってほしいと思う。

ギャオスは、心を開くことがなかったので、現れてから保護するまでに2ヶ月かかった。
現れる前に、どこでどれだけ野良をやっていたのかわからない。

急速にきれいになっていく横浜で、メリーさんは急速に居場所をなくしていったのだ。
メリーさんが姿を消したあとで、横浜の人たちはメリーさんを懐かしんだ。
野良犬の姿もない、きちんとしたものだけが並んでいる町では、少し気を抜くと自分の居場所さえなくなりそうだ。
雑多なものを許容してきた町の象徴として、人はメリーさんを懐かしんだのかもしれない。

故郷へ戻って、老人ホームで暮らすメリーさんは、ほんとうに美しく、この上なく品のあるおばあさんでした。